八潮の道路陥没事故から1年半。
下水道点検はどう変わったのか
―「管内 No Entry」へ、ドローン活用は実証から実装の段階へ―
2026/9/10
2025年1月、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故。下水道管路の破損に起因するとみられるこの事故を契機に、老朽化する下水道インフラをどのように維持管理していくかが、改めて大きな社会課題として注目されるようになりました。
事故から約1年半。国による全国特別重点調査が進められるとともに、下水道法等の改正や、新技術を活用した「管内No Entry」の推進など、下水道の維持管理を取り巻く環境は大きく変わり始めています。
その中で期待が高まっている技術の一つが、ドローンです。
ブルーイノベーションでは、屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」を活用し、自治体や下水道管路の点検事業者などと連携しながら、下水道管内に人が立ち入ることなく調査する技術の実証・実装を進めてきました。
9月10日の「下水道の日」にあわせ、八潮市の事故以降、下水道点検を取り巻く環境はどう変わったのか。「管内No Entry」に向けたドローン活用はどこまで進んでいるのか。そして、その先にどのような維持管理の姿が見えてくるのか。当社の取り組みとともに振り返ります。
この記事のポイント
✓ 八潮市の道路陥没事故以降、下水道点検はどう変わった?
✓ 「管内No Entry」へ。ドローン活用はどこまで進んでいる?
✓ ドローン×AIで、これからの下水道維持管理はどう変わる?
八潮の事故を契機に、下水道点検はどう変わったのか
八潮市での道路陥没事故を受け、国土交通省は大規模な下水道管路を対象とした全国特別重点調査を実施しました。
調査対象となったのは、全国535団体、約5,332kmの下水道管路です。2026年2月末時点で約5,121kmの目視調査が実施され、緊急度判定が完了した管路のうち、約748kmについて対策を必要とする箇所と判定されました。
事故を契機とした全国規模の調査によって、下水道管路の老朽化への対応は八潮市だけの問題ではなく、全国の自治体が向き合うべき課題であることが改めて浮き彫りになったといえます。
そして現在、取り組みは「緊急的に状態を調べる」段階から、下水道の維持管理そのものを見直す段階へと移っています。
2026年7月には「下水道法等の一部を改正する法律」が公布され、下水道施設の安全性を評価する「診断」の基準の法制化や、維持管理の状況を公表する仕組みなどが盛り込まれました。
事故が発生してから異常を確認するのではなく、日常的な点検・診断を通じて状態を把握し、必要な対策につなげていく。老朽化が進む下水道インフラを持続的に維持するため、その仕組みそのものが変わろうとしています。
「人が入って調べる」から「管内No Entry」へ
こうした変化の中で、もう一つ大きなテーマとなっているのが、点検・調査を行う作業員の安全確保です。
下水道管内は、流水や硫化水素、下水汚泥の堆積などにより、安全確保が難しい環境です。実際、当社がこれまで検証を行ってきた下水道管路においても、こうした厳しい環境下で作業員が管内に入ることなく状態を確認する手段が求められてきました。
そこで国土交通省が打ち出しているのが、「管内No Entry」という考え方です。
2026年4月には「『管内No Entry』の実現に向けた下水道管路点検の推進に関する基本的考え方」が示され、あわせて飛行式ドローンや浮流式カメラ技術の普及に向けたロードマップも策定されました。
危険な管内に人が入って調査することを前提とするのではなく、可能なところから新しい技術に置き換えていく。その方向性が、国の政策としても明確になりつつあります。
こうした動きを後押ししているのが、上下水道分野のDXです。
国土交通省が整備する「上下水道DX技術カタログ」では、上下水道施設の点検・調査や維持管理などに活用できるデジタル技術が体系的に紹介されています。
ブルーイノベーションが展開する「ELIOS 3」を活用した下水道点検技術も、同カタログの「実用段階」の技術として掲載されています。
ドローンによる下水道調査は、「将来使えるかもしれない技術」から、現場で活用するための選択肢の一つへ。その位置付けが変わり始めています。
実証から実装へ。現場とともに進めてきたドローン点検
新しい技術を下水道の現場に導入するためには、「機体が飛行できる」ことを確認するだけでは十分ではありません。
管路の形状や管径、流水、水位、通信環境など、下水道の条件は現場によって異なります。また、安全管理や人員配置、既存の調査方法との使い分けなど、実際の業務に導入して初めて見えてくる課題もあります。
そのためブルーイノベーションでは、自治体や点検事業者などと連携し、実際の下水道管路で検証を重ねてきました。
例えば大阪府富田林市では、ボックスカルバート(2,200×1,800mm)と直径1,500mmの管渠を対象にELIOS 3による点検技術を検証。パイロットが地上の安全な場所からリアルタイム映像を確認しながら機体を操作し、管内の状況を撮影。さらに、取得した映像の位置や撮影角度を3Dマップ上で確認することで、撮影後に映像を再解析することも可能です。
単に「飛ばして撮影する」だけではなく、取得した情報をその後の確認や判断に活用できる「使えるデータ」にすることも、現場実装に向けた重要なポイントです。
技術だけでなく、「使える環境」をつくる
一方、新しい技術を全国の下水道維持管理の現場に広げていくためには、個別の実証を積み重ねるだけでは十分ではありません。
ブルーイノベーションでは、日本下水道管路管理業協会とJUIDAが共同開催したデモンストレーションへの参加などを通じ、実際に管路の維持管理を担う事業者にドローン点検技術を紹介してきました。また、2026年には当社自身も同協会へ入会。ドローン点検における歩掛の整理や既存の下水道台帳管理システムとの連携、将来的なAIによる損傷判定・評価の自動化など、ドローンを実際の維持管理業務へ組み込んでいくための取り組みを進めています。
どれだけ優れた技術でも、発注方法や費用、運用方法などが明確でなければ、日常的な維持管理には採用しにくいものです。
技術を提供するだけでなく、「現場で使える環境」をつくる。
それも社会実装には欠かせない取り組みだと考えています。
さらに、下水道展への出展やデモンストレーション、技術フォーカス賞の受賞、自治体やNTT e-Drone Technologyなどとのウェビナーを通じて、実際の活用事例や運用上の知見を広く発信する活動も行ってきました。
現場で検証し、業界とともに運用方法を考え、そこで得られた知見を共有する。こうした積み重ねによって、ドローンによる下水道点検は「実証する技術」から「実際に使う技術」へと移りつつあります。
「実証」から「実際の調査」へ。八戸市で進んだ現場活用
では、実際の現場ではドローンがどのように使われているのでしょうか。
その一例が、青森県八戸市で実施された「下水道全国特別重点調査」です。
同市の調査では、水深が約1mあり、内径約2mの管路など、従来のテレビカメラ車では調査が難しい区間がありました。流水がある管内に作業員が立ち入る場合には、硫化水素だけでなく、急激な水位変化などのリスクも考慮する必要があります。
そこで、調査業務を受託したエイト技術株式会社がELIOS 3を活用。作業員が管内へ立ち入ることなく、約500~600mの対象区間を調査し、全国特別重点調査を完遂しました。
この八戸市での活用は、ドローンが「飛行できるかを試す」実証だけではなく、実際の下水道調査を完遂するための手段として活用された事例です。
実際の調査では、管径や調査延長、水位、マンホールの位置などを事前に確認し、飛行計画を策定。調査当日はマンホールなどからELIOS 3を投入し、作業員は地上の安全な場所から機体を操作します。
ELIOS 3には高輝度LEDライトや4Kカメラが搭載されており、照明のない管内でも壁面などの状態を映像として記録できます。さらに、機体に搭載されたLiDARで周囲をスキャンして点群マップを生成し、飛行経路とともにリアルタイムの3Dマップとして表示。パイロットは機体周辺の状況や点検対象の位置、飛行経路を確認しながら調査を進めることができます。
調査後は、取得した映像を解析ソフト上で確認します。
映像と3Dデータを組み合わせることで、単に「異常らしきものが映っている」だけでなく、管路のどの位置で撮影されたものなのかを確認できることも、ドローン調査の特徴の一つです。
そして何より重要なのは、調査のために作業員が管内へ立ち入る機会を減らせることです。
「人が行く代わりに、まずドローンを入れる」。
ドローンは従来の点検方法をすべて置き換えるものではありません。一方で、人が入るにはリスクが高い場所や、従来手法では調査が難しかった場所に対して、新しい選択肢を提供し始めています。
「飛ばして見る」から、「データで維持管理する」へ
ドローンによる下水道点検の可能性は、「人の代わりに管内へ入り、映像を撮影する」ことだけではありません。
ELIOS 3で取得した映像は、解析ソフト上で確認でき、必要な箇所を画像として抽出したり、3Dデータと組み合わせたりすることができます。点検時の状態をデータとして蓄積していけば、将来的には過去の点検結果との比較や、補修・保全計画を検討するための情報として活用していくことも考えられます。
そして、その先に期待されているのがAIの活用です。
現在は、ドローンが撮影した映像を人が確認し、異常箇所を判断する作業が必要です。しかし今後、AIによって撮影映像からひび割れなどの損傷候補を自動的に検出できるようになれば、膨大な映像を確認する作業の効率化が期待できます。
さらに、損傷箇所を3D上の位置情報と紐づけ、過去の点検データと比較して経年変化を把握するなど、ドローンで取得したデータを継続的な維持管理につなげていくことも考えられます。
人が危険な管内に入る機会を減らす。
そして、「飛ばして見る」だけでなく、取得したデータを維持管理に活かす。
八潮市の道路陥没事故を契機に、全国特別重点調査や制度の見直しが進み、下水道の維持管理は大きな転換点を迎えています。ドローンをはじめとする新技術に期待されているのは、単なる点検作業の効率化だけではありません。危険な場所にはできるだけ人が入らず、安全に状態を把握する。そして、取得したデータを蓄積・活用しながら、必要な対策へつなげていく。
そうした新しい維持管理の仕組みをつくることが、「管内No Entry」の先にある姿だと私たちは考えています。
ブルーイノベーションは、これからも自治体や点検事業者、業界団体、パートナー企業の皆さまとともに、現場での検証と実装を重ね、「人が入らない点検」を特別な方法から当たり前の選択肢へと広げていきます。
9月10日の「下水道の日」。
普段は目にする機会の少ない下水道ですが、私たちの暮らしを足元から支える重要な社会インフラです。
この日が、下水道を安全に、持続的に守っていくための「これからの維持管理」について考える機会となれば幸いです。
参考リンク
・ELIOS 3 を活用した下水道点検
https://blue-i.co.jp/solution/inspection/inspection_04.html
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