10月26日「原子力の日」に考える、
“人が入らない点検”という選択肢

―原子力施設で進むドローン活用―

2026/10/26

10月26日は「原子力の日」です。

1956年10月26日に日本が国際原子力機関(IAEA)への加盟を決定し、1963年の同じ日に日本で初めて原子力による発電に成功したことに由来します。

原子力施設では、設備の健全性を継続的に確認し、安全な状態を維持していくためにさまざまな点検が行われています。一方で、設備の中には高所や狭所、放射線管理が必要な場所など、人が立ち入ること自体に負担やリスクを伴う場所もあります。

ELIOS 3 RADペイロード

こうした場所を、必ずしも「人が入って確認する」ことを前提としない――。

その選択肢の一つが、ドローンやロボットによる遠隔点検です。

人が立ち入る前に設備や周辺環境の状態を把握できれば、立ち入りの必要性や作業範囲を見極め、点検・補修をより安全かつ効率的に計画することにつながります。

今回は「原子力の日」を機に、海外で進むドローンによる遠隔点検の事例と、一般の工場やプラントにも通じる活用の可能性をご紹介します。

この記事のポイント

✓ 海外の原子力施設で進む「人が入らない点検」の最新事例

✓ 放射線測定まで可能にした「ELIOS 3 RADペイロード」と遠隔点検技術

✓ 工場・プラントにも広がる「人が入ることを前提にしない点検」

「人を危険な場所に入れない」――ELIOSシリーズの原点

狭小空間で飛行するELIOS 3

原子力施設で活用されているドローンの一つが、スイスFlyability社が開発する屋内点検用ドローン「ELIOS(エリオス)」シリーズです。

その開発の背景には、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故があります。

事故当時、損傷した施設内部の状況を確認する必要がある一方、人が容易に立ち入ることのできない環境が生まれました。そうした状況を目の当たりにし、「人を危険な場所に送り込まずに、内部の状況を確認する方法が必要だ」という想いから開発されたのがELIOSシリーズです。

機体の周囲を球体状のガードで覆うことで、壁や設備に接触する可能性がある屋内・狭小空間での飛行も実現させたのが「ELIOS」シリーズです。現在の「ELIOS 3」では、カメラによる目視確認に加え、LiDARを使った3Dデータの取得なども可能になっています。

その活用先は原子力施設だけではありません。電力業界に留まらず、ボイラー、タンク、煙突など各種プラントの、人がアクセスしにくいさまざまな設備へ広がっています。

海外の原子力施設では、実際にどう使われているのか

海外では、すでに原子力施設のさまざまな場面でELIOSを活用した遠隔点検が行われています。

事例紹介①:高さ約20mの復水器内部を、足場を組まずに点検

原子力施設内での飛行状況

米国バージニア州にあるDominion EnergyのSurry Power Stationでは、原子力発電所の復水器内部の点検にELIOS 3が活用されています。

復水器は高さ約20mにも及ぶ大型設備です。内部は暗く、湿度も高いことに加え、高所・狭所での作業となるため、従来は足場を設置して点検を行っていました。

Flyabilityによると、足場の設置・撤去を含めて1週間以上を要していた工程を、ELIOS 3を活用することで点検を2回の12時間シフトに短縮。カメラによる目視点検に加え、超音波厚さ測定(UT)も実施しています。点検結果から補修が必要な場所を特定したうえで、必要な箇所だけに足場を設置する、といった運用も可能になりました。

遠隔点検を先に行うことで、その後の人による作業範囲や手順を具体化し、安全確保と作業の効率化につなげた事例です。

事例紹介②:高放射線環境での活用に向け、ELIOS 3の耐放射線性能を検証

放射線照射中
放射線照射中の様子

米国エネルギー省(DOE)関連のプロジェクトでは、地下に保管された高放射性廃棄物の取り出し計画を立てるため、ELIOS 3による内部調査が検討されました。

対象となる地下設備には配管や梁などの障害物があり、作業計画を策定するためには、写真や映像だけではなく内部構造の3Dデータが必要でした。しかしながら、高い放射線量が想定され、人が立ち入って調査することは困難と判断されたのです。

そこでELIOS 3を投入する前に、機体がどの程度の放射線環境で稼働できるのかを確認する試験が実施されました。

試験では最大10,000 R/hの放射線場で飛行し、**約4,000 Rの累積線量を受けるまで、カメラ、LiDAR、通信、照明など所定の機能が動作することが確認されました。**その後、オンボードコンピューターに異常が発生したため、試験は終了しています。試験報告書の時点では、この異常と放射線との因果関係は特定されていません。

本事例は、実際の廃棄物保管設備内部での運用実績ではなく、高放射線環境での活用に向けて機体の耐放射線性能を検証した事例です。人が立ち入って調査することが難しい環境での活用を目指し、こうした先立つ検証が行われています。

「見る」だけでなく、放射線を「測る」ドローンへ

RADペイロード

こうした原子力分野での活用をさらに広げたのが、「ELIOS 3 RADペイロード」です。

Flyabilityと放射線計測機器メーカーのMirion Technologiesが共同開発した、ELIOS 3に搭載する放射線測定用の機器で、遠隔操作しながら現在の線量率や累積線量、測定値の推移などを確認できます。

さらに、飛行後には取得した放射線データを位置情報とともに確認し、3D空間上で可視化できます。「線量が高かった」という点の情報だけではなく、「施設内のどの場所で高い値が確認されたのか」を把握し、作業計画や被ばく低減の検討に役立てられます※。

※3D空間上での線量分布の表示は、放射線量が高い場所を把握するためのものです。正確な測定値を取得する際には、機体を一定位置に保持し、測定値が安定するまで待つなど、センサーの特性に応じた測定が必要です。

ELIOS 3 RADペイロードは2023年、フランス・パリで開催されたWorld Nuclear Exhibitionにおいて「Nuclear Safety Innovation Award」を受賞するなど、原子力分野における新しい安全技術としても評価されています。

原子力施設の事例から、身近な設備点検を考える

原子力施設は、作業者の安全確保や放射線管理などの観点から、遠隔点検の必要性が特に高い現場です。

一方で、そこで求められている「人が入りにくい場所を、どう安全に確認するか」という課題は、一般の工場やプラントにも共通しています。

ボイラーやタンクの内部、煙突、高所の設備、狭いダクトや配管周辺など、点検のために足場を組んだり、設備を停止したり、作業員が狭い場所へ立ち入ったりしている場所は少なくありません。

こうした点検をすべてドローンに置き換えられるわけではありません。

それでも、
「点検するためには、人が入るしかない」
と思っていた場所について、
「まず、人が入らずに確認する方法はないか」
と検討する余地はあります。

原子力という高い安全性が求められる現場で進んでいる遠隔点検技術は、一般の工場やプラントにおける設備保全のあり方を考えるうえでも、一つのヒントになるのではないでしょうか。

「人が入ることを前提にしない」点検へ

福島第一原子力発電所事故を背景に、「人を危険な場所に送り込まずに状況を確認したい」という発想から生まれたELIOSシリーズ。

そこから技術は進化し、現在では映像による目視確認だけでなく、3Dデータの取得、超音波厚さ測定、そして放射線の遠隔測定までできるようになっています。

一方で、技術が進歩しても、その根底にある考え方は変わりません。

人が入らなくてもよい場所には、できるだけ人を入れない。

ドローンは、人による点検や専門家を支える「最初の目」として、立ち入り機会の削減や、点検・補修計画の具体化に役立てることができます。

10月26日の「原子力の日」。

原子力施設の安全を支える技術に目を向けるとともに、身近な工場や設備についても、「人が入ることを前提にしない点検」ができる場所はないか、改めて考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

参考リンク

・ELIOS 3 専用サイト
https://blue-i.co.jp/elios3/

 

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